2007/05/17

博士号を授与します!

もともとこういった分野でこういったことをやろうと思っていたわけではないですが、ひとつひとつ積み重ねていくうちに、こうなっていました。数年前は博士号をとることを目標にして必死でしたが、今は自分のような人も多いのではないかと思い、「博士号を授与したい」と思うようになりました。

わたしは、6年、3年、3年、4年と普通の日本の教育システムを完了し、その後社会人になってから、2年、3年半と大学院課程を修了しましたが、修士課程はともかく、働きながらの博士課程は凄まじいものでした。指導教授も後日談として笑ってくださいましたが、当時のわたしは「女を捨てるだけではなく、人間も捨てて博士課程に没頭せざるを得ない」状況でした。40才目前での入学だったので、博士号取得時には白髪もどっと増えていました。

しかし・・・と思うのです。確かに博士号にはそれだけの価値があり、それだけの研究過程は必要だと思うのですが、そんなに大変でなくてもいいのではないかと・・・わたしの周りに、ビジネスで成功しながら、博士号を持っている人たちがいます。つまり、ビジネスをやりながら、博士号をもっている、博士号をもちながらビジネスをしている・・・そんな人たちが、とても魅力的に見えました。

実は、日本では、まだビジネスマンが(ウーマンも)働きながら博士号をとれる機会がないのではないか、と感じました。わたしは2001年に博士号を取得しましたが、その時点では、働きながら博士課程に入っている人は、非常に取得が難しい(不可能?)状態でした。ほとんどの人は働くのをやめて、入学していましたし、博士課程終了後、ビジネスに戻る人も少ない状態でした。だいたいは大学の先生になるという感じです。

博士号は、大学の先生や研究者に限られた資格なのでしょうか? なにかもっと他の世界で、たとえば自営業や自由業というなかで活きない資格なのでしょうか? なんとかこの資格を活かして、自分自身で立てないかと模索していました。まだまだ模索中ですが、少なくとも現在は一歩も二歩も踏み出しています。

大学院卒業後、リーダーシップ研究大学というインターネットだけで修士号と博士号を授与するという大学院を創設しました。こういう考えと行動にいたった経緯は、博士課程で研究したアントレプレナー的なリーダーシップの概念が大きく影響しています。当時は、「事業創造のリーダーシップ」として研究していました。理論的には、現状には足りないものがありますが、わたしたちチームは人生折り返し地点以後のライフワークとしてとらえており、急がずじっくり不足分を足していきながら、内容のいいものを創りあげていこうという気持ちで取り組んでいます。

2007/05/12

新しいリーダーシップの源泉

自分のそばにいない人たちに対して影響を与える・・・そんなリーダーシップに必要な要素はなにかと考えてみました。ここでは、「価値観」と「信頼関係」をキーワードに考えています。

【「組織を変革するリーダーシップ」キャリアマネジメント誌2007年2月号より抜粋】

 時代の変化は、リーダーシップにとって重要な要素である。IT技術の飛躍的な発達により、わたしたちの仕事や生活の環境は大きく変わり、時間や場所にとらわれずにできることが大幅に増えることによって、在宅勤務、フレックスタイム、転職、インデペンデント・コントラクタなど組織への参加形態も参加度も変わった。どの組織に参加するか、どのリーダーに従うか、人々はより自由に決めるようになり、組織に関わる人材の流動性は高まった。組織やリーダーは、より多くの人を惹きつけ、惹きつけ続けるための力の源泉を得るために、これまで以上に努力しなければならなくなったのである。

 次表は、人材の流動性が低かった時代の「従来のリーダー」と流動性が高くなってきた時代の「現代のリーダー」について、どのように異なるかを象徴的に比較したものである。

図表:従来のリーダーと現代のリーダー (略)

 「従来のリーダー」は人材の流動性が低かった時代の官僚的なリーダーを、「現代のリーダー」は流動性が高い人材として、契約ベースのプロジェクト・チームやインデペンデント・コントラクタ、流動性が中程度の人材として社内チームなどを率いるリーダーをイメージしていただきたい。これらのリーダーを特徴づける要素として、ここでは「だれがリーダーを決めるのか」、「どのような力を持つのか」、「どのように部下を得るのか」、「どのように資源を得るのか」を比較している。

 従来のリーダーは、組織からその地位を与えられ、組織地位をもとにした力を与えられている(ポジションパワー)。部下も経営資源も組織から与えられており、その地位にいる限り、部下管理や資源活用の力を持つことができる。一方、現代のリーダーは、流動性の程度によって異なるが、多かれ少なかれ人材を惹きつけるため支援支持を得る努力をする必要がある。そのため、リーダーを決めるのは支持者たちであり、リーダーに力を与えるのも支持者たちである。この場合の支持者たちとは、リーダーのために働きたいと思う人々であり、あるいはリーダーのために資源を提供したいと思う人たちであり、そう思う人々はフォロアーである。フォロアーに自らリーダーのために働きたいとか資源を提供したいと思わせる力は、パーソナルパワーでり、現代のリーダーにはパーソナルパワーが必要になる。

 実際の組織や職場を見ると、特にIT革命後、組織への参加意識が自由になった人々は、価値感に共鳴できる組織や従いたいリーダーを自ら選び、辞めたいときは自由に辞めるという発想になっている。反面、組織やリーダー側は、特に組織規模が大きかったり、歴史の古い組織では、過去にうまくいっていたポジションパワーの発想で、組織地位やすでに機能しなくなってしまった価値観にしがみついたりしている。多くのリーダーたちは、そこから抜け出そうとしても、組織から与えられた価値観しか提示した経験がなく、自分の信じる価値観をどのように考え提示したらいいのかわからない。また、自分の組織地位以外に部下を従わせる力の源泉を持たず、部下に従ってもらうためにやさしく接したり甘やかしたりして、返ってリーダーとしての尊厳(一種のパーソナルパワー)を失ってしまうなど、見当違いのことをしてしまっている。(余談であるが、このことは、企業だけではなく、現代の日本の家庭や教育現場においてもいえるかもしれない)。

 現代のリーダーは、力の源泉も部下も資源も組織が与えてくれるのを待つのではなく、自分から獲得するという発想が必要である。獲得するためには、自分が信じる価値観を提示する勇気と覚悟を持ち、それに共鳴するフォロアーと信頼関係を創り維持する努力が必要である。情報が溢れている現代、人々は自らリーダーを選ぶようになったが、同時に情報の選定基準があいまいで、何が正しく何が誤っているのかわからず、強い価値観を打ち出すリーダーに惹かれやすい。しかし、効果的なリーダーシップにとって、価値観を強く打ち出すかどうかよりも、「どのような価値観を打ち出すか」という質の問題の方が重要である。リーダーが組織の使命や方向性や戦略に一貫性を持たせ、それらと組織環境や組織文化との整合性を説明でき、これらの価値観を組み込んだ目標や課題や具体的な行動指針を示せるかどうかが重要なのである。何が正しいのかわからない情報過多の時代では、組織のバックアップが十分に得られないこともあるかもしれないが、リーダーは時に自らの責任において、自分が信じる価値観を貫く必要もあるかもしれない。そういう使命感や責任感や実行力に人は感銘を受け協力したい気持ちになるのである。

 価値観は人を惹きつける力の源泉になるが、人を惹きつけ続ける力の源泉は信頼関係である。どんなに惹きつけられて人々が寄ってきても、信頼関係を結べなければ人々は去っていってしまう。「あなたのレディネス(状況対応リーダーシップ用語:能力と意欲の総称)はこうだから、このようなリーダーシップをとる」と約束し、その約束通り必要な支援を提供すれば、部下は課題を達成し、納得・安心して上司を信頼する。部下のレディネスに対して、「やればできるはずだ」と過度な期待をしたり、温情や遠慮でレディネスを高めに診断したりする必要はない。レディネスは業績評価ではなく育成のための診断基準であり、行動として実際に目の前で示されている能力と意欲を忠実に診断する必要がある。そうしなければ、返ってリーダーシップ不足となり、部下が課題を達成できなくなってしまう。これでは育成にもならず、またチャンスも与えることができない。結局は部下に期待通りの結果を返すことができず、部下の不信感を買い、信頼関係を築けなくなってしまうのである。

(注)状況対応リーダーシップは株式会社シーエルエスの登録商標です。

2007/05/09

新しいリーダーシップ研究の可能性

いままでのリーダーシップ研究だけでは、現代の、あるいはこれからのリーダーシップを十分に説明できないのではないかと思い、所属する組織にこだわらないリーダーシップを研究するようになりました。わたし自身も、ひとつの組織にしばられない、むしろ「自分」を中心にすえた複数の組織作りをしたいと思っているので、そういったなかでのリーダーシップ研究に関心があります。


【2005年「組織マネジメント戦略」慶応義塾ビジネススクール編、高木晴夫監修、有斐閣アルマ、第9章「リーダーシップの発揮」より抜粋】

●事業創造のリーダーシップ

IT革命によって、大企業や大資本でなくとも、事業創造が可能になった。産業革命後の20世紀でのリーダーシップは、モノづくりを基盤とした官僚制階層組織を運営するためのリーダーシップであった。しかし、IT革命後の21世紀のリーダーシップは、ネットワークのなかを縦横無尽に走る情報の中から、必要な情報を経営資源として活用し、それによって利益を生むシステムを創り出すリーダーシップである。

これは、既存の情報や他人がもっている情報を、自分の目的にかなうよう組織化し、新しく組み立て直すことである。これによって、新しい商品やサービスを創り出したり、新しい経営システムや生産システムやマーケティングシステムなど、新しい知識を創り出すことになる。このようにしてできあがった事業は、従来のような官僚制階層組織を必要としない。ネットワークに点在するメンバーたちが、事業に共鳴し、事業参画能力を持ち、事業からのリターンを期待している場合に、集まり組織化される。

これまでのリーダーシップ理論によって、リーダーとなる人物に要求される条件や、リーダーシップが有効に機能する状況特性(組織や職場の特性)などが明らかになり、組織や職場の成果や満足を得るための方法論が明らかになってきた。しかし、IT化が急速に進んだグローバルなネットワークという不確実性や多様性の高い環境においても、このような考え方で同じように説明できるだろうか。

IT化されたネットワーク社会のリーダーシップ研究は、ほとんど行われていない。現代の事業創造の成功者として研究されているリーダーたちは、シリコンバレーなどの新しい市場を開拓した企業家(アントレプレナー)たちである。コッター(Kotter [1988])は、リーダーシップとアントレプレナーシップを比較して、次のように述べている。(図略)

この比較では、企業家は行動的で自分勝手な個人主義者ととらえられ、リーダーは組織化を実現し利益を達成する経営者ととらえられている。一方で、ネットワークにおいて新しく事業創造するという意味での企業家は、コッターが定義する組織化を実現し利益を達成する経営者、すなわちリーダーと考えることができる。その意味では、現代のリーダーシップ研究は企業家研究に学ぶべきところがあると考えられる。

アマール・ビデ(Bhide [2000])は、100社の企業家を対象に行った調査で、企業家を「投資」、「リターン」、「不確実性」の3次元で分析し、5類型に分類した。その中で、事業創造に成功し、組織化を果たし、継続的な利益を得ている企業家、すなわち、大組織を築き上げるような企業家は、「革新的企業家」と呼ばれた。熾烈な競争市場で勝ち残り、長期的に生き残る企業家である。このような革新的企業家になるためには、投資家たちを強烈に惹きつけるようなビジョン、不屈の精神、カリスマのような並はずれた能力をもたなければならないという。

中略

IT技術が飛躍的に進歩した21世紀は、官僚的階層組織を重厚長大で動きのにぶい組織とし、無用の長物にしてしまった。ITによるネットワーク化のおかげで、物理的に大きな資本がなくとも、あらゆるネットワークから事業資源を獲得できる方法が提供されたといわれる(Saxenian [1994], p.57)。ネットワーク社会では、大企業や大資本でなくとも、企業家本人に信用があれば、多くの事業資源を惹きつけることができる(Bhide [2000], p.239)。もちろん、事業アイディアや事業計画も重要であるが、資源提供者は、特にスタートアップの企業家に対しては、ネットワークとの関わりを示す信用の方を重視することがわかった。このことは、事業創造のリーダーシップには、従来のリーダーシップ研究が依拠してきた階層的権威ではなく、ネットワークとの関わりを示す信用が欠かせないことを物語っている(山本 [2001], p.47-52)。

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