The Ethical Executive(上級管理者の品格)


The Ethical Executive Robert Hoyk, Paul Hersey共著

上級管理者の品格

~悪徳行為の原因を自覚する~
誰もが陥る45の心理的な罠

ロバート・ホイク・ポール・ハーシイ共著 
スタンフオード・ビジネス図書出版刊 






目次(仮訳)

罠 1: 権威への屈従
罠 2: ほんの僅か  
罠 3: 間接責任
罠 4: 無名の犠牲
罠 5: 集団への埋没
罠 6: 競合
罠 7: 目標の過大化
罠 8: 金
罠 9: 利益競合
罠10: 忠誠心の競合
罠11: 39
罠12: 同調の圧力
罠13: “波を立てるな”
罠14: 自尊心
罠15: 時間的切迫
罠16: 思考の型枠
罠17: 役割演技
罠18: パワー
罠19: 正当化
罠20: 義務
罠21: 怒り
罠22: 無感動
罠23: アルコール
罠24: 鈍感化
罠25: 矮小化
罠26: 呼び変え
罠27、28: こじつけ比較と誇大化
罠29: “誰もが遣っている”
罠30: “捕まりはしない”
罠31: “酷すぎはしない?”
罠32: 自己充足的偏見
罠33: 耽溺
罠34: 同僚の反応
罠35: 作られた印象
罠36: 犠牲軽視
罠37: 実行は確信
罠38: 精神異常問題
罠39、40: 貧困と放棄
罠41: 自己卑下
罠42: 権威主義
罠43: 社会的優越志向
罠44: 完結を求める気持ち
罠45: 感情移入  


本書は、なぜ他のビジネス倫理本と違うのか。 
まえがきより仮訳・・・

伝統的にビジネス倫理の多くの本は、価値観やルールを教えます。たとえば、“黄金律に従いなさい”といった式のものです。しかし、たとえ良い道徳的価値観を持とうとも、状況の圧力や本書に解説する錯誤などに押されて、誰もが不道徳になれるのです。

ビジネススクールや大学では、プロたちが自分たちの専門分野、たとえば、汚染、セクハラ、製品安全、差別、など正解のない分野で遭遇するだろう倫理的ジレンマの解説に終わってしまいます。こうした“灰色のジレンマ”を解決するために、他書は哲学的原則に基づく8項から12項のステップを解説します。よく売れている某ビジネス道徳テキストには、次のようなプロセスが示されています。

ビジネス上の意思決定を検討するための12の質問
  1. 問題を的確につかんでいるか? 
  2. 反対側の視点に立ってその問題を見たとき、どうその問題を定義するか? 
  3. そもそも、どこからこの問題は起こっているのか? 
  4. その団体のメンバーとして、誰に、何に忠誠を誓っているのか? 
  5. この決定をする上で、どのような意図があるのか? 
  6. その意図は、起こるであろう結果にどう関係しているか? 
  7. その決定、ないし行動は、誰にとって害になるか? 
  8. 決定を下す前に、その決定の影響を受ける関係者とその問題を話し合えるか? 
  9. 現時点で考えるように、長期的に将来も貴方の立場は確固としているか? 
  10. ためらうことなく、その決定、ないし行動を自分の上司、会社の最高幹部、重役会、家族、社会全体にいうことができるか?
  11. あなたの対応が理解された、もしくは理解されなかった場合の、効果は何か? 
  12. どのような場合に、あなたの立場に例外を認めるのか? 
こうした道徳的ジレンマを解説したテキストを読んで、学生たちは、正否をより分け、最良の道徳的
結論を出すことになります。

しかし、ジレンマや哲学的原理に基づいて、道徳は教えられるでしょうか?伝統的教育や教科書に
違いがあるのでしょうか?道徳教育を受けた学生たちが筆記試験を受ければ、確かに道徳的判断の向上は示すでしょう。しかし、ハッキリしないのは、そのことが職場の行動に影響するかどうかです。  

ハーバード・ビジネススクールの倫理教育教授ジョセフ・バダラコがビジネス界で倫理的ジレンマにぶつかった最近の修士課程修了者30人に対して面接を大々的に行いました。30人のマネジャーはすべてハーバードで、ビジネス道徳を受講していました。そのうち半分ほどは、公式道徳プログラムを持つ会社で働いていました。バダラコは“会社の道徳プログラム、行動規範、使命表、緊急相談、等々に頼っても、何の助けにもならない・・・若いマネジャーたちは、会社の信条、会社への忠誠心、会社幹部による促進、哲学的原理、宗教的反省、などによらず、自らの個人的な考察、個人的価値観に従ってジレンマを解決した”、と書いています。ハーバード・マネジャーの大半は、自分たちの価値観は基本的には家庭での教育を通して獲得しており、道徳講義からではありません。この研究は、哲学的原則基づいた従来の道徳教育が職場へは浸透しないことを示しています。

バダラコの研究の後は、職場の実際行動と倫理教育との結びつきを調べる試みはなされていないようです。しかし、ここ12年の間に道徳テキストも改善されてきました。だんだんに、道徳性を築く組織文化の形成と維持のためのマネジメント倫理が強調されるようになって来ています。道徳書に欠ける多くは、悪徳行為の原因―心理的ジレンマ―への着眼です。ビジネスの世界では、利益を最大化しようする気持ちと法の規制に従おうとする気持ちとの板ばさみから悪徳行為を犯すのではなくて、社会心理的な罠(利益最大化の熱意も、一種の罠です)に嵌まって悪徳行為を冒すのです。

道徳の歴史は、哲学的原則の活用に基づいています。心理学の先駆は哲学でした。哲学的思想が経験科学に洗礼されて、心理学が誕生しました。いまや、哲学が道徳の先駆者であることを認めるべきときであり、道徳を科学と社会心理学の分野へ進めるべきときです。 

バダラコの研究で面接したハーバード・マネジャーの多くは、悪徳行為をあからさまにボスから要求されるという権威への屈従の罠にぶつかりました。たとえば、ハーバード・マネジャーの一人は、新製品紹介のデータ捻り出しを上司から言いつかっています。彼が反対を唱えようとすると、上司から、言われた通りにやれと押し付けられています。不道徳なことをやるように言われたこの新米マネジャーは非常に苦しんだようです。言いつけどおりにやらないと、上司の支持を失い“昇進組”から外される恐れがありました。結果的にキャリアがダメめになり、失業する恐れがあったのです。

では、“ビジネス決定を検討するための12の質問”を見てみましょう。これらの質問で、このマネジャーが直面した問題に関係するものがありますか?このマネジャーが、この質問を活用していたとしたら役に立ったでしょうか? これらの12の質問はほとんど役立ちません。 

10番目の質問“ためらうことなく、その決定、ないし行動を自分の上司、会社の最高幹部、重役会、
家族、社会全体にいうことができるか?”のみが、そのハーバード・マネジャーが採った決心に関係するものです。その面接の内容から推して、マネジャーたちとっての廉潔さの重要度が容易に推し量れます。

これらハーバード・マネジャーたちが当面したのは、権威への屈従の耐えがたい苦痛でした。この苦痛は、だれをも跪かせるものでした。本書に解説する多くの罠は、我々を悪徳行為へ誘う強力な力を備えています。

例の“12の質問”は、結果的にハーバード・マネジャーたちを悪徳行為へ導く苦しみを軽くするのに役立つものではなかったのです。彼らマネジャーたちは、未だ若く、自分のキャリアーが始まったばかりだと考えて、その苦しみに耐え自分を慰めるしかなかったのです。仮に、道義的にやってクビになったとしても、別の会社で働く事もできる、と自分たちに言い聞かせる事ができました。たいていの場合、ハーバード・マネジャーはこうした柔軟性を持っていたので、当面するジレンマを凌ぐことができました。年をとっている者の場合は、家族や会社で既に築き挙げたものを失うこと、かつ、新しい職を見つけるのが難しいことを知っていました。では、たとえば、中年のマネジャーの場合はどうしたでしょう。彼らには、ハーバード・マネジャーのような柔軟性はないし、何年もかかって昇り詰めてきた昇進の階段、抱える家族のことを思うと、こうした苦痛が襲ってきたとしたら、何ができるでしょう。

権威への屈従の罠が、生み出す苦痛は二つの問題を巡って起こります。昇進と仲間入り、です。

この罠が、2つの付加的な罠、同調と自己欺瞞、を生み出すことにも注意して下さい。(自己欺瞞には、3つの副次タイプ:目標の専横化、金、利益競合、があります。一つの罠が、他に一つ、二つの罠を引き起こし得ます。)

にもかかわらず、中間管理者が本書に記されたような罠をハッキリと知っていると、自分たちに起こっている事を客観的に理解し、役立たせることができます。直面する罠の性質、罠の誘惑、罠が引き起こす問題について考え、できれば友人と話し合こともできます。これによって、当人の悩みとの間に距離をおくことができ、苦痛の深さを和らげることもできます。いくつかの罠に平行して苦しんでいると分かれば、行動を緩め、注意深くなり、警戒心も警戒視も強まります。結果として、慎重さも増します。中間管理者が注意深くなって、時間的余裕ができ、自分たちの不安を充分に話し合うようになれば、いわゆる減感プロセスが起こって不安も大きく軽減されます。全体として、物ごとを繰り返し、繰り返し、話し合うことによって、気持ちの上で大抵の苦労には慣れてくるものです。こうなれば、マネジャーたちも罠を回避できるようになっています。それでも、不安が強いようなら、心理学的手法―心理学者が指導する手法に頼ることになるでしょう。 


  

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