2007/05/12

新しいリーダーシップの源泉

自分のそばにいない人たちに対して影響を与える・・・そんなリーダーシップに必要な要素はなにかと考えてみました。ここでは、「価値観」と「信頼関係」をキーワードに考えています。

【「組織を変革するリーダーシップ」キャリアマネジメント誌2007年2月号より抜粋】

 時代の変化は、リーダーシップにとって重要な要素である。IT技術の飛躍的な発達により、わたしたちの仕事や生活の環境は大きく変わり、時間や場所にとらわれずにできることが大幅に増えることによって、在宅勤務、フレックスタイム、転職、インデペンデント・コントラクタなど組織への参加形態も参加度も変わった。どの組織に参加するか、どのリーダーに従うか、人々はより自由に決めるようになり、組織に関わる人材の流動性は高まった。組織やリーダーは、より多くの人を惹きつけ、惹きつけ続けるための力の源泉を得るために、これまで以上に努力しなければならなくなったのである。

 次表は、人材の流動性が低かった時代の「従来のリーダー」と流動性が高くなってきた時代の「現代のリーダー」について、どのように異なるかを象徴的に比較したものである。

図表:従来のリーダーと現代のリーダー (略)

 「従来のリーダー」は人材の流動性が低かった時代の官僚的なリーダーを、「現代のリーダー」は流動性が高い人材として、契約ベースのプロジェクト・チームやインデペンデント・コントラクタ、流動性が中程度の人材として社内チームなどを率いるリーダーをイメージしていただきたい。これらのリーダーを特徴づける要素として、ここでは「だれがリーダーを決めるのか」、「どのような力を持つのか」、「どのように部下を得るのか」、「どのように資源を得るのか」を比較している。

 従来のリーダーは、組織からその地位を与えられ、組織地位をもとにした力を与えられている(ポジションパワー)。部下も経営資源も組織から与えられており、その地位にいる限り、部下管理や資源活用の力を持つことができる。一方、現代のリーダーは、流動性の程度によって異なるが、多かれ少なかれ人材を惹きつけるため支援支持を得る努力をする必要がある。そのため、リーダーを決めるのは支持者たちであり、リーダーに力を与えるのも支持者たちである。この場合の支持者たちとは、リーダーのために働きたいと思う人々であり、あるいはリーダーのために資源を提供したいと思う人たちであり、そう思う人々はフォロアーである。フォロアーに自らリーダーのために働きたいとか資源を提供したいと思わせる力は、パーソナルパワーでり、現代のリーダーにはパーソナルパワーが必要になる。

 実際の組織や職場を見ると、特にIT革命後、組織への参加意識が自由になった人々は、価値感に共鳴できる組織や従いたいリーダーを自ら選び、辞めたいときは自由に辞めるという発想になっている。反面、組織やリーダー側は、特に組織規模が大きかったり、歴史の古い組織では、過去にうまくいっていたポジションパワーの発想で、組織地位やすでに機能しなくなってしまった価値観にしがみついたりしている。多くのリーダーたちは、そこから抜け出そうとしても、組織から与えられた価値観しか提示した経験がなく、自分の信じる価値観をどのように考え提示したらいいのかわからない。また、自分の組織地位以外に部下を従わせる力の源泉を持たず、部下に従ってもらうためにやさしく接したり甘やかしたりして、返ってリーダーとしての尊厳(一種のパーソナルパワー)を失ってしまうなど、見当違いのことをしてしまっている。(余談であるが、このことは、企業だけではなく、現代の日本の家庭や教育現場においてもいえるかもしれない)。

 現代のリーダーは、力の源泉も部下も資源も組織が与えてくれるのを待つのではなく、自分から獲得するという発想が必要である。獲得するためには、自分が信じる価値観を提示する勇気と覚悟を持ち、それに共鳴するフォロアーと信頼関係を創り維持する努力が必要である。情報が溢れている現代、人々は自らリーダーを選ぶようになったが、同時に情報の選定基準があいまいで、何が正しく何が誤っているのかわからず、強い価値観を打ち出すリーダーに惹かれやすい。しかし、効果的なリーダーシップにとって、価値観を強く打ち出すかどうかよりも、「どのような価値観を打ち出すか」という質の問題の方が重要である。リーダーが組織の使命や方向性や戦略に一貫性を持たせ、それらと組織環境や組織文化との整合性を説明でき、これらの価値観を組み込んだ目標や課題や具体的な行動指針を示せるかどうかが重要なのである。何が正しいのかわからない情報過多の時代では、組織のバックアップが十分に得られないこともあるかもしれないが、リーダーは時に自らの責任において、自分が信じる価値観を貫く必要もあるかもしれない。そういう使命感や責任感や実行力に人は感銘を受け協力したい気持ちになるのである。

 価値観は人を惹きつける力の源泉になるが、人を惹きつけ続ける力の源泉は信頼関係である。どんなに惹きつけられて人々が寄ってきても、信頼関係を結べなければ人々は去っていってしまう。「あなたのレディネス(状況対応リーダーシップ用語:能力と意欲の総称)はこうだから、このようなリーダーシップをとる」と約束し、その約束通り必要な支援を提供すれば、部下は課題を達成し、納得・安心して上司を信頼する。部下のレディネスに対して、「やればできるはずだ」と過度な期待をしたり、温情や遠慮でレディネスを高めに診断したりする必要はない。レディネスは業績評価ではなく育成のための診断基準であり、行動として実際に目の前で示されている能力と意欲を忠実に診断する必要がある。そうしなければ、返ってリーダーシップ不足となり、部下が課題を達成できなくなってしまう。これでは育成にもならず、またチャンスも与えることができない。結局は部下に期待通りの結果を返すことができず、部下の不信感を買い、信頼関係を築けなくなってしまうのである。

(注)状況対応リーダーシップは株式会社シーエルエスの登録商標です。